運輸省へ入省してはや13年以上が過ぎましたが、その間さまざまな仕事に携わってきました。運輸省内では主として港湾行政を担当し、様々な港湾政策の立案、個々の港の長期計画やウォーターフロント開発計画づくり、港湾分野の情報化(EDI)の制度設計、経済分析手法の開発などソフト面の仕事が多かったのですが、その他にも、ハード面では、鉄道、道路併用の沈埋トンネルの設計、港湾施設や空港施設の施工管理など、港湾以外の運輸社会資本の整備も担当しました。
また、運輸省外では、国土庁で多種多様の社会資本の政策調整や事業調整を担当したり、留学中は社会資本整備のバックグラウンドとなる経済学、行政学、地理学を勉強したり、また国際開発金融機関であるアジア開発銀行では、トランスポートエコノミストとして開発途上国における運輸社会資本整備プロジェクトの案件形成や融資に携わっております。
このように社会資本全般にわたって幅広い知識と経験を積む、特にマクロの政策や戦略づくりに携わることができたのは、官公庁(運輸省)に就職したからこそだと思っております。
多くの社会資本のうち、運輸省が担当している運輸社会資本(港湾、空港、鉄道)は、他の社会資本と比べて大きな特徴があります。
一つは、経済を支える社会資本であるということです。天然資源をほとんど産出しない我が国においては、貿易とそれを支える輸送が経済の生命線です。運輸社会資本を利用して運ばれるものは、貨物か旅客ですが、特に貨物の動向は製造業者の生産動向、すなわち経済動向に密接に関連しております。このため、運輸社会資本の計画づくりには、交通計画以外にも、経済、産業、物流などの豊富な知識が必要です。
二つめは、運営される社会資本であるということです。運輸社会資本は不特定多数の人が自由に利用できる社会資本(一般の道路、公園など)ではなく、特定の輸送事業者(船会社、エアライン、鉄道事業者)が利用する社会資本です。このため、特定の運営事業者(ターミナルオペレーター、荷役業者など)による運営が不可欠です。他の多くの社会資本のように、整備した後は維持管理さえしていれば事足りるという訳にはいきません。こうした輸送事業者や運営事業者は民間企業であることが多いため、整備者である行政サイドと運営者や利用者である民間企業との間の制度設計が不可欠ですし、またそれに関連して民間の企業経営の知識も必要となります。
三つめは、港湾と空港に関してですが、国際インフラであるということです。港湾と空港は、国際輸送市場において、世界、特にアジア諸国との熾烈な競争と協調のうえに成り立つ社会資本です。このため、その戦略づくりにおいては、常に国際的な視野と英語力が必要です。
四つめは、港湾に関してですが、面的に整備される社会資本であるということです。一般的に、線的に整備される社会資本と比べ、施設配置計画、土地利用計画など計画が複雑で困難であることが多い上、陸の論理(陸の利用からみた最適配置計画)と海の論理(海の利用からみた最適配置計画)との調和も考慮しなくてはなりません。このため、都市計画の知識とともに、港湾施設の配置計画の知識(特に波浪、船舶航行性能、港湾施設の設計施工、施設利用者の利用形態等)も不可欠です。
このように運輸社会資本の整備は複雑かつ困難で、また多種多様の知識が必要ですが、一方で経済社会に対する影響力も大きく、大変やりがいのある仕事です。就職、また進路を考えておられる皆さん、我が国経済を支える運輸社会資本整備の一翼を担ってみませんか。お待ちしております。
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